毎年10月16日は国連が定めた”世界食料デー”です。
この日は世界で、飢餓問題やフードロス、食の安全などの食料問題について考える日になっています。
特に本年2020年は、ノーベル平和賞に飢餓への支援を行なった、世界食糧計画(WFP)が選ばれるなど食料問題がフォーカスされています。
現在世界では既に、すべての人が十分に食べられるだけの食料が生産されているといいます。
しかし、未だに世界人口の8.9 %、11人に1人が飢餓状態であり、その多くはアフリカやアジアといった途上国の人々です。
その一方、世界では毎年生産される食料の3分の1にあたる13億トンが食べられることなく捨てられています。
特にアメリカや日本といった先進国では過剰に生産された食品が、食べ残しや賞味期限切れなどの理由により廃棄されています。
実際、日本ではこうした食品ロス(フードロス)は年間600万トン、毎日大型トラック約1,700台分に達しているそうです。
このようなフードロスは、地球環境への負荷も及ぼす可能性があるといいます。
廃棄された食料の生産や流通、廃棄過程で使われた資源やエネルギーは無駄に消費されることになり、またその際に排出される温室効果ガスは36億トン、これは世界の総排出量の約8%にあたるそうです。
もしも気温の上昇や天気・気候の変化、干ばつや洪水など異常気象により食料を作り育てる環境が影響を受けた場合、被害を大きく受けやすいのは、アジアやアフリカなどの途上国の農家や畜産農家、そしてそこに暮らす食べ物が最も必要な飢餓状態の人々です。
一方で、日本の食料自給率は約38%。その様な外国などからたくさんの食料を輸入する一方、その多くを食べずに廃棄しています。
廃棄率が特に高い食品の一つに、パンがあるそうです。
パンは、わたしたちが醸造しているビールは同じく麦と酵母が原料であり、ビールは”液体のパン”と言われるほど歴史的にもパンとビールは深い関係にあります。
そしてビールの歴史が深いイギリスでは近年、この問題となっているフードロスへの取り組みとして、廃棄されるパンをビールの原料に再利用する活動が行われています。
この廃棄パンを使ったビール”TOAST”は、街のベーカリーで売れ残ったパンや、サンドイッチの製造過程でカットされ捨てられるパンの耳などをビール原料に利用し、フードロス問題に取り組んでいます。
日本でも、既に長野県のブルワリーAJBさんや、神奈川県のブルワリーであるヨロッコビールさんなど廃棄パンのビールを作っているとのことです。
また、Brewing for Natureの間伐ひのきビール作りに参加頂いた静岡県のアオイビールさんと、同県のブルワリーのカケガワビールさんも、コラボビールとして廃棄パンを使ったビール”To be or, Not to be”を作られました。
カケガワビールさんは、もともと直営店で毎年この世界食料デーに合わせて廃棄食品使うイベントを行っていたそうです。
そのイベントでは、地域のスーパーや農家さんから廃棄トマトやキャベツ、また地鶏の廃棄ガラなどを使ってスープを作るなどを行いフードロスへの取り組んだそうです。
その流れの中で作られたビールが”To be or, Not to be”だそうです。このビールはこんがり焼いたパンの様な香りを持つ、とっても美味しいブラウンエールです。
そして2020年の初めには、以前都内ブルワリーに勤められ、間伐ひのきビール作りにも参画頂いた江口奈々さんとフジヤマハンターズビールさんが共同して、廃棄パンを利用したビールを作る取り組みを始めました。
江口奈々さんは、以前からSDGsやフードロス問題、そしてそれに対する廃棄パンビール作りを自分でも取り組みたいと考えていました。
百貨店の伊勢丹さんからもフードロスについての取り組みについて何かできないかとお話しがあり、この取り組みを始めようと考えたそうです。
そしてBrewing for Natureで繋がったフジヤマハンターズビールさんに声がけし、活動の一環として代表・深澤 道男さん、そしてブルワーの福山 康大さんと共に廃棄パンビールの取り組みを始めました。
この取り組みに対して、百貨店の伊勢丹さんには同社のフードイベント”ISETAN for FOODIE”にてこのビールの取り扱をいただき、またベーカリー・アンデルセンさんにはビールに再利用する廃棄されるパンをご提供頂くことが出来ました。
廃棄パンの受け取りの際に、江口奈々さんは実際に廃棄されるパンの多さにとても衝撃を受けたそうです。
数字としては理解していても、実際に毎日これだけの量の食べ物が廃棄されるということを目で見たとき、この取り組みへの思いがより一層強まったそうです。
受け取った廃棄パンは、冷凍で保管されビール作りの工程であるマッシングの際に糖分を得るためのビール原料として使用されました。大きいパンなどはよく混ざる様にこぶし大にちぎって使用したそうです。
その後このビールは、パンと縁が深いコーヒーのフレーバーを入れたビールとして設計され、フジヤマハンターズビールさんの地元である静岡・富士宮のモウデルコーヒーさんのコーヒー豆を使ったコーヒーエールとして醸造されました。
食べられずに捨てられるはずだったパンがビールの原料として再利用され、パンとコーヒーが同時に楽しめるビール”Bread’n Coffee Ale”として生まれ変わり、多くの人に飲んで貰えることができました。
このビールのレシピは、フジヤマハンターズビールさんのご厚意により本記事に記載させていただけることになりました。
大切なビールレシピの提供に感謝すると共に、廃棄パンビールにご興味を持って頂けた方のご参考になれば幸いです。
液種:Bread’n Coffee Ale
スタイル:コーヒーエール
バッチサイズ:250L (目安)
■モルトビル
量 | 種類 | English Name | °L | 割合 |
27kg | ペール・モルト | Pale Malt | 2.81 | 39.7% |
25kg | マリスオッター | Carahell | 3.75 | 36.8% |
10kg | 廃棄パン | Bread wastes | – | 14.7% |
5.0kg | カラヘル | Carafa T2 | 10 | 7.4% |
1.0kg | カラファ T2 | Cara Malt | 525 | 1.5% |
■ホップスケジュール
量 | 種類 | English Name | 工程 | 時間 |
250g | コロンブス | Columbus | ボイル | 60min |
850g | コーヒー豆 | Coffee Beans | 発酵 | 3days |
■酵母
Safale US-05 (Fermentis)
※設計時レシピのため、各工程での様々な調整変更により最終出来上がりとは厳密には異なります。目安・ご参考としてご留意下さい。
今回再利用できた廃棄食品はほんの一部ですが、今後各々の住む街のローカルベーカリーやレストラン、農家や食品店、また地域の学校給食の食べ残しパンなどがローカルブルワリーにビールとして再利用され、ローカル同士の繋がりで、少しでも各地域のフードロスが少なくなればより多くの影響が広がって行くのではないかと感じています。
また今回の廃棄パンのテーマに関しては、江口奈々さんをはじめとした廃棄パンビールを作ったブルワー・ブルワリーさんをお呼びしトークセッションも行ないました。
廃棄パンビールを作った時の技術的なお話しなど、ここに書けていないより深いお話しをお聞きすることができましたので、ご興味あればご視聴いただければと思います。